あなたが喜ぶことが
わたしの喜び

祖父が開き、父が働いていたこの診療所に呼び戻されたのは
医師になってまだ3年足らずのとき
大学病院で意気揚々と経験を積み始めた矢先だから
正直、嬉しくはなかった
帰ってきて最初の死亡診断書が父のものになろうとは…

祖父は熊本で医師となり、この地にやってきた
いつまでもここに居るつもりはさらさらなかったらしい
ところが、土地の人たちの人柄を知るにつけ
いつの間にか、他へ行く気は失せたよう
戦前のことである

戦後に父が引き継いだ
診療所にやってくる老若男女
やがて歩くことができなくなった人には往診で応える
それが当たり前だった

父の跡をついだとき
やはり当たり前のように、外来をして、往診に出掛けた
大学病院を途中で切り上げたから、取り立てて専門はないけれど
それが逆に良かったのかもしれない
色々な病に向き合い、気負うことなくその道のプロを紹介し
そこから帰って来た人たちの一生に、寄り添ってきた
会えば、笑い転げる話もある
会えば、涙がこぼれる話もある
会えば逆に、元気をもらうこともある
いつの間にか
若い時にここに戻ってきて良かったと思う私がいた

30年ほど前から、落語家を呼んで寄席を開くようになった
公民館では、土地の人たちが泣くほど笑ってくれた
小学校では、歌手もやってきて、笑ったり歌ったり
それが嬉しくて嬉しくて、やめられなくなった

「あなたが喜ぶことが わたしの喜び」

外来も往診も寄席も
全部が私のライフワーク
祖父が開いて100年になろうとするこの診療所を
今度は、息子が継ごうとしている

医師
河郷 忍/かわさと しのぶ

略歴
昭和28年(1953)2月生まれ
昭和46年(1971) 高水高等学校 卒業
昭和53年(1978) 関西医科大学 卒業
         関西医科大学第3内科入局
昭和57年(1982) 河郷診療所にて開業
役職
玖珂医師会 地域包括ケア担当理事
岩国市 岩国市地域包括ケア推進協議会
岩国市地域包括支援センター運営協議会
表彰
山口県へきち医療功労者知事表彰
「よろこびのうた」
作詞・作曲/リピート山中